早いもので、もう11月中旬。
前の投稿が5月17日なので、気がつけば半年も更新を怠ってしまいました。
久々にメイキングを描こうと思います。
今回は『しぜん ⎯ キンダーブック』11月号です。
いつも楽しいお題を下さる『キンダーブック』シリーズですが『しぜん』は初めて。
こちらは『キンダーブック』の自然科学系部門の絵本雑誌で、
今回のご依頼は重力を説明するページの立体イラスト。
丸い地球の上下左右に子どもたちがくっついている立体を作って欲しいとのことです。
これ、一回やってみたかったんです。
というのも私、「water field colore child」と名付けた世界の民族衣装の人形を
何年も前からコツコツ作ってまして、まだ全部出来ていないのですが、
7年前にとりあえず一度展示した時はこんな風に飾ってみました。
写真じゃわかりにくいけど、ちょうどギャラリーの壁に窓状の穴があったので、
そこに埋め込む形で同サイズの箱を作って埋め込み、
せっかくだからカーテンも作ったりして、劇場仕立てにしたのです。
これはこれで面白い趣向でしたが、難点が一つ。
せっかく作った後ろ姿が見えないのです。
民族衣装だけに、背中もいろいろ凝っていて、細かい模様をちまちま描いたのに。
それにメルカトル図法の地図、これも好きだけど、やっぱり上下の間延びが気になります。
ロシア、デカすぎる…。グリーンランドも誰もいないのにデカすぎる…。
最近じゃアメリカで地球平面説の陰謀論も流行っているとかなんとか。。
いやいや地球は丸いんです。
だから、次に展示するときには、まあるい地球の上下左右にこの子たちをぷすぷす刺して
展示したいなーって思っておりました。
まあでもこの子たちの制作はここ数年サボっていて一向に増えないので
まだまだ先だにゃ〜死ぬまでにできるかにゃ〜、、、なんて緩みきっていたところ、
お題の方が仕事で先に来てしまった!
ということで、これは展示の予行演習だと思い、楽しく制作に励みました。
さて前置きが長くなってしまいましたが、ここからが今回のメイキングです。
この本では一つのアングルしか写真を使わないので半球で良いだろうと見込んだのですが
そうなると五大陸の全ては入らないわけで、さてどうしよう。
地球をどこで真っ二つにスカポンするか…。
打ち合わせでは、日本の位置が左上にくるとわかりやすいかもですねー、
なんて話になったのでぐるぐるぐるぐる地球儀を回しながら考えて、
最初に決めたアングルはこの位置でした。
わかりやすい様に、半分で切る位置に黄色いゴムを巻いています。
北極が左に来て、地中海を中心に据えたこの位置だと、
端っこすぎて見えないけれど、一応日本が左上の黄色いゴムのところにあり、
他のあらゆる人種の子たちも周囲に配置できるかな、と思ったのです。
で、ラフを作成しました。
りんごの木がある場所が、ユーラシア大陸の向こうの海に浮かぶ日本。
木の左のオレンジのパーカーを着てる子が日本の女の子で、
時計回りに、タイの女の子、南アフリカの男の子、大西洋に浮かぶタンカー、
南米大陸にはブラジルの女の子と男の子、
北米大陸にはアメリカの男の子、ワンちゃん、カナダの女の子、
再びユーラシア大陸に戻って、ロシアの男の子、と並べてみたのです。
でもこのラフの地球、ちょっと嘘をついています。
上の地球儀と比べるとわかりますが、アメリカ大陸が入る様にググッと寄せています。
意図的というより、丸いものを見ながら描くと、目では見えているものだから、
アメリカ大陸を入れたい気持ちが先走ったか、ついつい入れ込んでしまった感じです。
ちなみにアフリカ大陸がググーッとインド洋の方に寄っちゃっているのは
デッサン力の無さというか、歪んでしまっただけです、はい。
でもまあ、それほど不自然にも感じなかったので、これで良いかと。
というわけで、子どもたちは気楽にサクサク作りました。
べっこう飴状態の世界の子たち、かわいい。
さて問題は地球の方で、
東急ハンズで買って来た半球のスチロールに下地を塗ってザクっと描いてみました。
するとやっぱりラフの地球がおかしいので、なかなか辻褄が合わない…。
ラフではインド洋が狭すぎたのでもっと拡げて、
じゃあタンカーは大西洋上じゃなくてインド洋上の方がバランス良いかもと、
南アフリカの男の子と位置を入れ替えたり。
これであっている…? アメリカ大陸見えないよね…。
四角い画面から四角い画面へ模写するのは慣れていても
球体から半球体に模写するのって、意外とムズカスィ。
目だけで追ってると、どうしてもズレるので、
塗った地球をスマホで撮っては、地球儀の画像とphotoshopで重ねてみる。
するとアフリカやヨーロッパが大きすぎて大西洋にズレ込んでいることに気づきます。
ヨーロッパってたくさんの国があるから広い印象なのですが、
実は狭いところに小さな国が密集してるだけなんですよね。。
これを見ながら修正し、また撮影して重ねてみる、というのを繰り返し、
少しづつ、ズレを正していきました。
中途半端に文明の利器を利用しつつも、至ってアナログな努力の結果、
アフリカ大陸がズズズと地殻変動→移動の末、
あるべき地球の姿に近づいてきたの、ですが…、
うーん…。
アメリカ大陸、一応描いているのだけど、端っこすぎて見えません。
みんな、海に浮いているみたい。
日本の女の子も、これじゃあ大陸にいるみたい…。
これでは子どもたちのお国柄がわからないし、
そもそもこの地球、なんかしっくりこないんですよね。。
ここで編集さんに画像を送って、ちょっと相談してみました。
すると編集さんもおうちでぐるぐるぐるぐる地球儀を回し悩んでくださって
送ってくれた画像がこちらです。
おお!これは、おなじみのユーラシア大陸!
そう。日本を左上にっていうのにこだわっていたのがいけなかった。
「慣れ」っていうのは侮れないものです。
やはりいつも見慣れている「北半球が上」の姿じゃないと、地球と認識しないのか?
更に私たち東洋人にとって見慣れたユーラシア大陸が真ん中にあると、
それだけでなんともしっくりくる。
これがヨーロッパやアメリカの絵本であったら、 また別のアングルになるのでしょうね。
とは言え、子どもたちはラフで設定したお国柄設定で、すでに作ってしまっている。
どうしたものか。
編集さんの地球儀画像を元に、 またphotoshopであれこれと配置を考え直してみました。
これでどうだ!
このアングルだと、日本はギリギリ右上に目視出来ます。
タイ人の女の子はフィリピンより向こう、ミクロネシアのグアム島あたりまで行っていますが、
まあ、南国っぽい服装なのでOK。
アメリカ大陸はぐるっと後ろに隠れてしまったのでどうしましょう。
アメリカの男の子、ヒップホップなファッションなのだけどな〜。
ふと思いついて「オーストラリア ヒップホップ」で検索してみると、
「“オーストラリア・ヒップホップ”がなかなかアツい!」と紹介されているサイトを発見。
よっしゃーこれだ!シドニーに移住!
カナダ人の女の子も、昔私が短期ホームステイしたオーストラリア西海岸の
パースの家の娘さんキャサリンに似てるからパースに移住!(こじつけ)
タンカーはやはりインド洋を悠々と航海し続けて。
南アフリカはギリギリ入っているのでこのままでOK。
ブラジルでサンバを踊っていた子の女の子はぁぁぁ、え〜っとぉぉぉ、
あ、いたいた!4年前に行ったモロッコのジャジューカ村に!
こんなファッションのベルベル人の女の子がいましたよ!
ってことで北アフリカに移住です。(苦し紛れ)
サンバじゃなくてジャジューカミュージックでトランスしましょう。
ブラジルで盛んなサッカーは、ヨーロッパでも負けず劣らず盛んですよね。
はい、サッカー留学で欧州へ!
カナダの女の子が飼っていたワンちゃんは、ロシアの男の子にプレゼント!
で、ほらっ。どうです?
バッチリじゃないですか!
という…、なんともアクロバティックな民族大移動の末、
構図の変更が完成したのでした。
ということで気を取り直して、地球の大陸を描き換えていたところ、
またまた事件が起こってしまいました。
下地が剥けたんです。
ぺローンと。
本当に綺麗に。
本当はその衝撃画像を皆さんに披露したかったのですが、
あまりに衝撃的すぎて写真を撮る余裕もありませんでした。
あーでもないこーでもないと大陸移動をした、あの努力はどこへ…?
犯人はコイツです。
これマヨネーズ状の粘土です。
ジオラマ作る時の壁材とかに手っ取り早く使えるんで重宝してました。
しかし、そういうおためごかしの類いには、あつらえ向きなのだけれども、
絵の支持体として使う様な気骨のあるタフガイではなかった。
たぶん成分的には木工用ボンドみたいなもので、
気は良いから飲み会の穴埋め要員にはもってこいだけど、
所詮ペラペラしたチャラいヤツ、いざというところで頼っちゃいけない方でした。
いや、絵と言っても「ただ地球描くだけだしー!」と
タカをくくって支持体を舐めていた私が悪かった。。
ということで、綺麗さっぱり生まれたままの姿に戻ったスチロールを前にして、
私も生まれたままの初々しい心に戻ったのでした。
で、この方の登場。
ジェッソさま。
決して派手ではないけれど高倉健の様に黙々としかるべきことはやる男。
コイツをを5回くらい塗って、それでもスチロールの凹凸が隠れないので、
石塑粘土で覆って、やすりがけして、、粉吸いまくり、またジェッソを塗りまして…、
やっと綺麗な丸になりました!
初々しい…。
何か生まれそうな、そこはかとなく有機的な、卵みたいに神聖なお姿。
そして私もアホですが、アホはアホなりに体を張って学ぶので、
前回の失敗を省みて今度はちゃんと鉛筆で陸地のアタリをつけました。
いや、基本ですよね。。。
ユーラシア大陸!
今度こそ間違いない!
さて塗るぞ!
流石にジェッソ様と石塑粘土様の下地は堅牢で、塗りやすいのなんの。
アタリをつけたおかげで迷いもなく、あっという間に完成したのでした!
かわいい坊の竹串を刺したい。
さしたい。
サしてみたい…。
はやる気持ちを抑え、撮影に向けて厳かに梱包します。
そして撮影日当日⎯⎯⎯⎯
一度刺したら地球に穴が空いてしまうので、
まずは子どもたちを周囲に並べるだけのバージョンを。
とりあえず白い紙に置いてみました。
影が落ちる…。
あたりまえですね。
これでは半球であることがバレバレです。
もちろんこれで撮影して、後で切り抜いて合成するという手もあるのですが、
それはあくまで “おさえ” として、なんせプロのカメラマンさんですから、
影なしで撮影する方法も華麗に披露してくださったのです。
ガラスーーー!!
しかも、下の紙に光を反射させることで、紙自体が発光して遠い影も落ちない。
その上で、オブジェも逆光にならないためのあれやこれや、超絶照明テクを施して下さった。
その結果は…、
素晴らしい!!
でもこちらは白バックなので合成用のおさえです。
今度は合成ではなくて、青い紙(宇宙)をバックに直撮りバージョンに挑戦!
スタジオには様々なストックがありますが、グラデーションの入った良い感じの青い紙があり、
これをバックに撮ると…、
おおお〜〜〜!
深遠な宇宙を思わせる透明感!
最高です!
更に。
最後には待ちに待った串刺しバージョンです。
ファインダー越しに覗いているカメラマンさんにチェックして頂きながら
「この辺ですか〜?」といちいち確認しつつ慎重に刺していきました。
真横から見ると、タンカーなんか、結構上の方に刺してますでしょ。
マダガスカルからオーストラリアに向かって悠々と悠々と航海しています。
では出来上がった画像をご覧ください!
ジャーン!
最高!!!!
やっぱり周囲にぐるっと置かれているより、人形が多少上下している方が
動きが出て一気に豊かな雰囲気になりますね。
これは刺してみないと本当にわからなかった。
ちきゅうに ひっぱられたから!
うん。ひっぱられてる、ひっぱられてる!
あ、結局カナダからオーストラリアのパースへ移住したキャサリンは、今はデンマーク在住です。
よく見たら服のデザインも北欧っぽいじゃないですか。
それに欧州にサッカー留学した彼は、今はスペインで活躍してるみたいですね!
誌面右下に囲み記事が入るので全体的なバランスを考えて、右側の人数を減らしたのです。
この様に、打ち合わせ、制作中、撮影中、皆さんと相談しながら、
臨機応変にちょこちょこ変更したりして、より良き誌面を目指して作ってます。
ちなみにこの囲みの中の「たいよう」「ちきゅう」「つき」の絵も描きました。
他のページには、動力の説明図や、アルキメデス、ガリレオ・ガリレイ、ニュートンなど
歴史上の人物の絵なんかも描いています。
子どもの頃、理科は一番苦手な科目だったので「アルキメデスのげんり」って何だっけ??
読んでもいまいち理解できない…(汗)、などと、頭をひねりながらたくさん描きました。
でもやっぱりこの立体イラストのページが一番好きだし、わかりやすい!
子どもたちの記憶の片隅に「万有引力といえばアレ」なんて
大人になってもこの立体の残像が、残ってくれたら嬉しいなぁ。
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『キンダーブック がくしゅうおおぞら』10月号
『キンダーブック がくしゅうおおぞら』10月号では、来年小学校に入学する子どもたちに向けて
小学校ってどんなところか紹介するページのイラストを描きました。
こちらが3〜4ページ。
こちらが5〜6ページ。
ふたつの本を並べると、
バーン!
全貌が眺められるのです。
キンダーブックは幼稚園で配られる本なので、お友達の本と並べて遊んでくれるといいな。
別のイラストレーターさんのキャラクターや写真も載るので、煩雑にならない様にPCで着色。
コピックも好きだけど、お子さん向けには単色塗りもポップで良いですね。
遊び心がふんだんに盛り込める楽しいお仕事でした。
今年は休校が続いたりで、学校も寂しかったと思いますが、
早くこんな風に密で賑やかな光景が、子どもたちの元に戻って来ますように!
『キンダーブック3』9月号「むかしの いえ いまの いえ」
キンダーブックって、ご存知ですか? 来年で創刊90周年を迎えるんだそうで、昭和2年生まれの雑誌です。
私が通っていた幼稚園では、残念ながら配っていなかったのですが、
幼稚園でこの本に馴染んだ方は必ずと言って良い程「懐かしい〜!」と歓喜の声を上げて下さいます。
前に『キンダーブックがくしゅうおおぞら』で、たくさんのジオラマを掲載して頂いた時には、
昭和40年代生まれの夫も、昭和10年代生まれの親戚のおばさまも、同じ様に懐かしむとともに、大変喜んでくれました。
最新号の9月号では、平面イラストを掲載して頂いております。
俯瞰図と言うより断面図です。総じて箱庭絵画とでも申しましょうか。
さて、今回のテーマは「むかしの いえ いまの いえ」です!
扉はこんな感じ。家の外観を描いています。
「ここを めくってね。」というところをめくると、観音状に開きます。
ジャーン!おうちの中が御開陳!詳細に見て行きましょう。
こちらは左観音の「むかしの いえ」
こちらが右観音の「いまの いえ」
その後、カットイラストのページを挟んで、こんなページもあります。
昔のおもちゃか、今のおもちゃか考えて、シールを貼るページです。子どもはシールが大好きです!
5歳のボクは両親とおじいちゃん、おばあちゃんと新しい家に一緒に住んでいます。
でも、この家が立つ前にはどんな家がたっていたんだろう。
おばあちゃんが、ボクと同じ年頃だった昭和35年頃、
今の家とは全然違うおうちに住んでいたんだって。
建材も違う。家具も違う。家電も違う。服も違う。遊びも違う。
でもよくよく見てみると、庭にある栗の木や、金木犀の木はおんなじだ。
いやおんなじじゃない、結構おっきくなっている。
そして、ボクがおばあちゃんに遊んでもらっている様に、
おばあちゃんも、そのまたおばあちゃんに遊んでもらっていたんだね。
と、こんなイメージで描きました。一つ一つを見比べながら、おばあちゃんの時代を想像してもらう、
昭和とともに生きたキンダーブックにふさわしい、とても楽しい特集ですね。
歴史考証の難しい内容でしたが、大好きなテーマなので、資料集めも面白かったです。
中でも、大田区にある「昭和のくらし博物館」はとっても参考になりました。
また、ちょっとした家具を一つ描くのにも、小さな発見の連続でした。
古い家の玄関すぐ横の書斎にある藤製の椅子は、明治期からあった物だけど、
昭和初期までは、まだまだお金持ちのアイテムだったそうです。
やっと庶民に普及したのが昭和中期。だから、私が小さい頃やたらと見かけたのね!とか。
新しい家のアルミサッシの窓枠は昭和45年頃の登場で、それまで家の中を
苦労して掃き掃除していた主婦達には、革命的な出来事だったんだ!とか。
今は当たり前になってしまった、どうってことないアイテムの一つ一つに、当時の方達が抱いていた憧れや希望。
そんな気持ちに思いを巡らすと、なんとも感慨深いものがありました。
箱庭的世界が好きな私にとって、家というのは日常に存在する大きな箱庭です。
それはただの建材や物の集積ではなく、住まう家族の喜びや悲しみも刻むものに見えるからです。
そうした語り尽くせない家族の歴史を、家というテーマを通じて、
小さいボクたちがほんの少しでも感じ取ってくれたら、この上なく幸せですね。
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